17th March-5th April 2014, "Hundreds of faces" 個展, 不忍画廊、東京
series “friends” について
“friends” シリーズは、2012年夏スエーデンの工房での滞在制作から始まった。現地で出会った友人の肖像をはがき大のエッチングにするのである。それまで自分(内側)のため、自分のことしか描かなかった僕が、人(外側)のために描くことになるのだ。彼らは自分の肖像にたぶん期待をし、僕は描くプレッシャーと、一方では予期しなかったパワーを彼らからもらうことに気付く。製版の過程で何度も相手のことを考える。なぜこう描いたかを説明し、このようなことが友人との関係をより親密にし、外につながりや広がりを見せるように思える。漢字で名付けして、刻んだ彼らのことはもう忘れないだろう。2013年カナダ、オーストラリアなどの滞在制作を加えた計60人の肖像に、今はかつてないほどのフィット感を持っている。
美流華 Virge
2012年夏、スエーデンの版画工房で1か月の滞在制作をした際に、エストニアのドローイングトリエンナーレ展参加のためにタリンに滞在。ビルゲVirgeは主催者の奥様で美しい、赤いドレスがよく似合うような魅惑的なタイプの女性だった。はるばる東京からやってきた僕が、作品のプレゼンテーションの前で緊張しているときに、優しく気遣いを持って接してくれた。彼女は話す時に、軽くその美しい指を僕の肩に触れるのであった。孤独であった僕は、彼女の優しさに救われたようにも感じ、その指に魔法をかけられたような、そんな肖像にしたいと思った。2013年彼女が来日した際に、旦那さんと並べて刷った作品を渡すことができた。彼女を描いた作品はウエブ上で結構の人気になっており、この刺青までしている外国のFACEBOOK友人もいる。
毬栗鼠 Marilyse
2013年夏、カナダ、ケベック州の小さな町の版画工房で3週間滞在制作。マリリース Marilyseは最初に工房で会った若いシルクスクリーンの作家である。人一倍元気で、話す声はいつも大声、うるさいほど。妊娠中で、溶剤がおなかの赤ん坊にはよくないので、この作品が終わったら当分工房には来ないとのこと。元気な大声は4つの見開いた目と大きな口。おっぱいとお乳は妊娠中とのことで。残念だが完成作を彼女に直接渡すことはできなかった。工房のスタッフに渡してくれるように頼んだ作品を、彼女は見たのだろうか?
四月 April
2011年ニューヨークでグループ展をしたときにエープリル Aprilのアパートに1週間滞在。彼女はアメリカでは珍しい水性木版画の作家である。以前淡路島にあった木版画の工房に滞在制作したことがある。くりっとした目と横に結んだ髪の毛、木版画ということでバレンをモティーフにして描いた。結果、竹の皮を結んだ表情が盗人のようにも見えて、面白くなった。昨年来日した際に差し上げたら、とても喜んでくれた。また今年芸大が主催する木版画会議に再来日する。
微多 Peter
2012年初冬、オーストラリアのケベックで8週間の滞在制作。その時期そこは初夏で、ケベックは首都なのだが、実は首都らしいものはなく、大自然に囲まれたところであった。ある日滞在したコテージの庭でコーヒーを飲んでいたら、目の前をカンガルーが走り去っていったのには驚いた。ピーター Peterは工房の若い男性スタッフであり版画作家。彼に顔を描いていいかと依頼した時は、今は忙しく時間がないとのこと。見て描くわけではないと説明した。外人特有のくっきりした目鼻立ちで、特にその唇の形は極めてくっきりして浮き上がって見えた。ブロンドのカーリーヘアーは鳥の巣を連想させたので、卵を目のように描いた。また、彼はよくかわいい中途半端な長さの半ズボンをはいていた。
我菜鈴 Annabelle
ケベックの工房で3人の大学生に銅版画のワークショップを行う機会があり、アナベル Annabelleはその一人。黒い瞳が美しい彼女は、おしゃれのセンスも素敵で、また、工房の画廊で個展中だった僕の100facesシリーズをとても気に入ってくれていた。ある蒸し暑い日、タンクトップと短めのズボンで工房に来た彼女に、多くのわき毛とすね毛を発見。彼女は採食主義者だけでなく、動物から取った牛乳、チーズなども食べない、強度のナチュラリストであった。美しい顔にはまだ目を開かぬ蕾の花を。工房で刷って差し上げたら、彼女はとても喜んでくれ、彼女は自分の作品をプレゼントしてくれた。